抗体様の働きを持つ DNAアプタマー

核酸アプタマーは標的分子さえ手に入れればSELEX法を用いて試験管内で作製でき、作製したアプタマーの塩基配列を決定することで、化学合成により高純度の大量調整が可能となります。

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抗体様の働きを持つ DNAアプタマー

1990年米国のグループから、標的分子(低分子物質や蛋白質など)に結合するRNA断片を人工的に得るための試験管内進化法が報告されました。これは、ランダムな塩基配列を有するRNA断片のライブラリを用いて、選別と増幅を繰り返し行う方法です。こうして得られる抗体様のRNA分子はRNAアプタマーと名付けられ、この手法はin vitroセレクション、あるいはSELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法と呼ばれるようになりました。最近では、DNA断片のライブラリを用いたDNAアプタマーの作成例も増え、抗体に代わる医薬品として核酸アプタマーが注目されるようになりました。

核酸アプタマーとモノクローナル抗体の比較
単一の抗体産生細胞から作られるモノクローナル抗体は、すでに診断・治療薬があり、さらなる開発が進んでいます。しかし、抗体医薬にはいくつかの問題点があります。たとえば、抗体治療薬自体が抗原性を示してしまう場合があることです。また、抗体によっては特異性が低い場合もあり、毒性が高い分子に対する抗体は作れません。さらに、動物や培養細胞を用いて抗体を作製・生産するために、品質が安定しないこともあります。
一方で、核酸アプタマーは標的分子さえ手に入れればSELEX法を用いて試験管内で作製でき、作製したアプタマーの塩基配列を決定することで、化学合成により高純度の大量調整が可能となります。また、抗体と比較すると核酸の抗原性は低いと考えられています。その理由の一つは、核酸アプタマーの欠点でもある、血中での安定性が抗体よりも低いことにあります。核酸アプタマーの作用時のみ安定化させて、その後は血中の核酸分解酵素により分解させれば、安全な医薬品として期待できます。さらに毒性の高い物質(低分子化合物・ププチド・蛋白質など)に対しても核酸アプタマーを得ることができます。

1990年の最初の報告以来、核酸アプタマーの医薬への応用が期待されていますが、これまでに認可された医薬品は、加齢黄班変性症の治療薬としてVEGF(vascular endotjelial growth actor:血管内皮増殖因子)に対する修飾RNAアプタマー(ペガプタニブナトリウム 商品名:マクジェン)のみです。投与法の制限などいくつかの問題はありますが、標的分子に対する核酸アプタマーの結合能を高めることができれば、付随する問題の解決にもなります。核酸アプタマーのほとんどはnMオーダーレベルです。また、RNAアプタマーよりも大量調整が安価にできるDNAアプタマーの方が望ましとされ、核酸塩基を修飾する方法などが考案されています。最近、人工的に作り出した新たな塩基をライブラリに組み込むことにより、数十pM以下のKd値を有する改良型DNAアプタマーを得る方法が開発され、DNAアプタマーの結合能を飛躍的に高めることができるようになりました。
従来のSELEX法に加えて、特定の細胞(がん細胞など)を標的にしたCell-SELEX法や、動物に直接ライブラリを導入して特定の組織に結合する核酸アプタマーを得るin vivo SELEX法などの報告も増えています。今後のDNAアプタマーの広い応用が期待されています。

※アプタマー:Aptamerは、特定の分子と特異的に結合する核酸分子やペプチド。
 ライブラリ:特定の生物の染色体 DNA を制限酵素を用いて断片化し、ベクターに組み込んで増殖 させ保存したもの。全遺伝子領域を含むため遺伝子の機能・構造などを研究する際の材料となる。

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