α1アンチトリプシン(α1-AT) - 血清中の代表的なプロテアーゼインヒビターであり急性相反応物質の一つ。欠損症で若年性肺気腫を引き起こす蛋白質

α1アンチトリプシン(α1-AT)

α1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin:α1-AT)は394個のアミノ酸からなる分子量約51,000の糖蛋白で、電気泳動上はα1グロブリン分画に泳動されます。血清中の代表的なプロテアーゼインヒビターであり、活性中心にセリンをもつ蛋白分解酵素(セリン・プロテアーゼ)一般を阻害する働きをもつ蛋白で、serin protease inhibitor superfamilyの原型蛋白とされています。トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、エラスターゼなど広範なセリン・プロテアーゼを阻害しますが、主として好中球エラスターゼを阻害し、1対1で結合して組織障害の拡大を防ぐ役割を担っています。

α1-ATはC反応性蛋白(CRP)をはじめとする急性相反応物質(acute phase reactants)の一種で、組織の損傷や感染、急性の炎症に対して非特異的に急性相反応を誘起します。急性相反応物質にはα1-ATやCRPのほか、α1-AG、セルロプラスミン、ハプトグロビンなどが含まれます。急性・慢性感染症、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患などにより組織障害が起こると、これらの産生が亢進し、血中濃度が上昇します。α1-ATは悪性腫瘍、特に肝癌・肺癌・白血病でも高値になり、一般に腫瘍の大きさや、転移の有無に相関するとされています。

また、α1-ATには遺伝的に著明な低下をみるα1-AT欠乏症および欠損症があり、若年性肺気腫や小児肝硬変の原因になることが1960年代に相次いで報告されました。α1-AT欠乏症は、α1-AT遺伝子の塩基置換に基づくアミノ酸変異という質的異常を伴いながら、α1-ATの量的減少が認められる先天性代謝異常です。α1-AT欠乏症ではプロテアーゼとプロテアーゼインヒビターの均衡障害により若年性肺気腫や小児肝硬変がおこると考えられています。
血中α1AT濃度は、新生児では成人の約70%ですが、生後約3週でほぼ成人と同じレベルに達し、その後加齢による変動や日内、季節変動はほとんどないとされています。

検査材料:血清
測定方法:ネフェロメトリー法
基準値:単位(mg/dl)94〜150

高値を示す病態:ストレス症候群、急性・慢性感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、膠原病、肝疾患(急性・慢性肝炎、アルコール性肝炎、肝癌など)、アレルギー性疾患、外科手術後、妊娠、薬剤(副腎皮質ステロイド、エストロゲン、経口避妊薬など)

低値を示す病態 :[先天性]α1AT欠乏症または欠損症
[後天性]ネフローゼ症候群、新生児呼吸促迫症候群、栄養不良、蛋白喪出性胃腸症、劇症肝炎 など

健康診断・血液検査MAP